FUZZ FACE は1966年に登場したとされており、最初期のモデルはブラックフィニッシュ、ハンマーグレイ(シルバー)フィニッシュ、そしてレッドフィニッシュが確認できています。モデル名やコントロール関係の印刷は黒一色刷り。レッドフィニッシュの黒一色刷りも存在は確認できていますが中でも珍しい仕様と言われています。

1966年ポットを搭載したARBITER ENGLAND期 FUZZ FACEにはいくつかのバージョンが存在します。

見た目で判断する場合にわかりやすいのがIN/OUTなどの文字フォントの違い。V1型(THIN FONT)V2型 (BOLD FONT)が存在します。また、時期により下地の塗装(塗料もしくは塗装方法)も変更されています。実際に66年のFUZZ FACEの中でも、初期はツヤなし、後期(もしくは67年生産)は塗装にツヤがあり、塗装の厚みや塗り方も異なります。口元のラバーは25溝前後です。

ジャック/スイッチ/ポット/バッテリースナップ​に関して、POTはRADIOHM社(FUZZ 1K / VOLUME 500K)この個体は66年10月のポットデイトを持っています。フットスイッチはBULGIN ENGLAND。ジャックはタツノオトシゴマークのRENDAR INSTS. LTD / MADE IN ENGLAND(後のRS製と同じパテントコード974786)入り。このジャックとスイッチを通過した音は独特で、特に信号がスイッチを通過する際に生じる音色の変化は重要です。これを「音痩せ」と呼ぶか否かは人それぞれですが、何れにせよ結構な音色の変化を加えます。そしてその音がFUZZ FACE自体の音に「かなり影響している」と私は感じています。バッテリースナップは茶色で+側がブラス、−側がニッケルとなります

筐体とプリント​に関しては前記した通り、INとOUT、そしてFUZZとVOLUMEのフォントが細く、 “FUZZ FACE”のフォント自体にも違いがあります。

最初期から68年型までのゴム足はナットでネジ止めされていた様です。この個体は同年代のWAHペダルなどでお馴染みのゴム足が取り付けられていました。69年頃から(おそらく原価を下げるため)差し込み式のゴム足に変更された様です。

1966 FUZZ FACEの筐体は鋳物で成形されており、この個体では外周壁の厚みに1ミリ以上の誤差が確認できます。同年代のTONE BENDER MK1.5やMKIIの筐体も同じく鋳物ですが、そちらの方が成形のクオリティーは高いといえます。また、FUZZ FACEのバックパネルには様々な厚みと素材の違いが存在します。手持ちのペダルで確認したところ、1966年モデルのバックパネルにおいても軽いスチール製とやや厚めのスチール製が混在。この個体のバックパネル厚は1.35mmでした。バッテリーホルダーは一般的には黒いスチール製の物をハトメで取り付けていますが、この個体は欠品のためか補修/交換されています。バックパネルを留めるスクリュー。交換されていることが多いのですが、これはスクリューの不具合ではなく筐体/受け側の問題がほとんどです。こちらはオリジナルのスクリューで、頭が平らなタイプです。*ゴムチューブはスクリューの抜け防止のために私が取り付けたものです。筐体側のねじ受けの形状も初期型ならでは。ごく短期間のみの筐体となります。

基板まわりに関して、基板を止めているネジは丸みのある鍋型。これは初期だけの仕様です。この個体は元の売主が「STRANGE VERSION」と言った個体で、奇妙なことにNKT 275トランジスタが寝かされて取り付けられていません。以前、同じ様な個体を見たことがあります。これまで、ただ単純に「トランジスタを寝かせていないだけ」だと思っていましたが、どうやらそうではない様です。


NKT(NEWMARKET)ブランドの#275 TRANSISTORですが、同じくNKTのゲルマニウムトランジスタを使用しているペダルとして有名なのはBOLDWIN BURNS BUZZAROUND(#213)です。FUZZ FACEと同時期(1966年)のファズといえばTONE BENDER MK1.5やTONE BENDER MKIIがありますが、FUZZ FACEとBUZZAROUND以外のペダルファズペダル以外ではNKTトランジスタは使用されていないと思います。理由は不明ですが、NKTのトランジスタはそれほど質が良くなかった、と言うような話を聞いたことがあります。ラジオや真空管コンポーネントのマニア筋のサイトでは「なぜギター界隈でこれほどNKTが持て囃されているか理解できない」と言うような記事を見た事もあります。また、NKT 275はHFE値が低めであると言う事から、初期のFUZZ FACEの様にオーヴァードライブ的サウンドには都合が良かったのでしょう。余談ですが、同時期にARBITERが発表したTREBLE BASS BOOST FACEはシリコントランジスタ(BC109)を採用していました。のちにFUZZ FACEもBCシリーズのシリコントランジスタを搭載します。

FUZZ FACEは1966年の数回のロッド生産のあと、NKT 275ゲルマニウムトランジスタからシリコン・トランジスタに仕様を変更します。とはいえ1966年だけでなく、1967-8年ごろのFUZZ FACEにもNKT 275を搭載したが個体が存在しますが、おそらく在庫パーツの使い切りなどが目的の短期的な生産だったと推測します。

まずシルバーの個体の基板上の注意として、通常33Kの抵抗が15Kに置き換えられているのでご注意ください。オリジナル(33K)のままだとゲートが強く、さっぱり良い音ではありませんでした。当時の33K抵抗を知人から譲ってもらい交換してみましたが結果は同じ。そこで2台の66 FUZZ FACEの音を基準に適当に手持ちの抵抗に交換したところ、15Kを使用した際のサウンドが良い感じだったのでそのままキープしています。前オーナーは当時このペダルを購入したそうで、購入時から「この音だった」と言っていました。

この件に関して英国の重鎮 Stu Castledineに話を聞きました

「33kは最初のトランジスタのコレクタ抵抗です。15kに交換するとQ1のコレクタ電圧が高くなり、Q2のコレクタ電圧が低くなり、ファズが少し減り滑らかな音になるだろう」との事。技術的な事はさっぱりわかりませんが、今回の初段のNKTに対するアプローチとしては入力に対する電圧が高くなることでQ1トランジスタの動作が安定しつつ「FUZZ=ゲインが少し減る」と言うことで、結果的にチューニングがうまくいった理由になるのかもしれません。しかしまだ解らないことがあるのでStuにこの個体を送って、検証してもらうつもりです。


2種類のNKT275

さらに1966年ほかのFUZZ FACEの基板画像をリサーチしてみると、NKT 275トランジスタに2つのサイズが存在することに気づきました。他の個体のトランジスタのサイズを測ってみると、Q2のNKT 275のサイズは9.13mmでした。この個体のQ2のNKT 275サイズは9.31mmでした。もしかして交換されているのか?と思い裏面ハンダ部分をチェックしてみましたが、どうやらトランジスタは交換されていない様子(4箇所のハンダあて直し部分は私の仕業)この事に加え、いくつかのFUZZ FACEをチェックしたところ、どうやらNKT 275トランジスタは2種類を組み合わせて使っているらしいという考察に辿り着きました。もちろんhfe値が異なる(Q1のhfeがQ2に比べると低めである、など)の検証は他のサイトでも確認できましたが、今回の考察はそもそも別の種類(ロッドではなく種類)のNKTを組みわせていたのでは?という事になります。今後、他の個体もチェックしながらこの辺りを深掘りできたら良いと思います。

DATA:

Q1 9.13mm
Q2 9.31mm
バックプレート厚 1.35mm
筐体の厚み 4.17mm – 5.19mm

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